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【小説】ココロの居場所 21 (最終話) + あとがき

母に美春を頼もうと携帯に電話をしたら、すでに僕の自宅にいて。
「最後なんだから泊まってあげなさい」
という母の一言で、全部片付いてしまい。
何もかも、全部お見通しか。

柚葉の手料理を食べるのも、今日が最後だ。
母に料理を教わり、レパートリーも随分増えたようだった。
味付けは、なんだか母に似てきたみたいで、僕には懐かしい味だった。

いつもの通りだった。
いつもの通り、ゆっくり、穏やかに時間が過ぎて行く。

いつもと違ったのは、僕がいるときに柚葉がシャワーを浴びた事だ。
柚葉の後にシャワーを浴びて出てきたら、柚葉は既にベッドの中にいて。
こりゃ、何も着てないなと思って布団をまくったら案の定で。

僕は柚葉の隣に滑り込んだ。

でも、何もしない。

柚葉を抱きたい。
ひとつになりたい。
でも、もし、柚葉を抱いたら、僕は柚葉から離れられなくなる。
それは、結局、柚葉を不幸にする。
だから、僕は何もしない。

柚葉が僕の上に乗ってきて、僕にキスをした。

「エッチしないんですか?」
柚葉が僕を誘う。

「エッチしたら浮気になっちゃう」
「キスはしましたよ」
「キスは……ギリギリセーフ。多分……」

「手塚さんの中で、浮気の定義は?」
「エッチしたら浮気かな」

「私の中ではね、浮気には二種類あって……一つは身体の浮気」
「うん」

「もう一つは心の浮気……」
「そして心の浮気は、浮気じゃなくて……」

「本気って事」

「僕は本気って事だね……」
また、柚葉がキスをしてきて、僕は柚葉を抱きしめた。
柚葉の肌はスベスベで、肌に触れる感触が心地よかった。
僕の身体に押し付けられた胸も、思っていたより大きかった。

でも、そんな事はどうでも良かった。
僕は柚葉の側にいて、柚葉は僕の側にいる。
それが僕にとっては、大切な事だった。

「手塚さん」
「ん?」
「私は生きます。手塚さんが、死んだらダメだって言ったから、私は生きます」
「消えたくなったら、手塚さんの事を思い出します」
「うん……」

「だから、手塚さんも、いろんな事、諦めないでください……」
「うん……」

僕は目を閉じた。
涙が出そうだったから。

「私の事、好きだって言ってくれた事、ずっと忘れません……」



目が覚めたら、もう深夜で、柚葉は僕の腕枕で眠っていた。
穏やかな寝顔だった。

せめて、今夜だけでも、ぐっすり眠れると良いね。

僕は飽きもせず、柚葉の寝顔を眺めていた。
柚葉が眼を覚ますまで、ずっと眺めていた。
柚葉は悪夢にうなされる事もなく、明け方まで一度も目を覚まさなかった。



柚葉の作った朝食を食べた後、柚葉の荷物をカバンに詰めた。
荷物と言っても、僕が柚葉に買ってあげた着替えと、制服くらいしかない。

柚葉を連れてマンションを出る。
母が僕の車を出して、外で待っていた。
後部座席には、美春もいた。

僕の運転で、病院へ向かう。
誰も、何も喋らない。
多分、僕には僕の、母には母の、柚葉には柚葉の想いがあるのだろう。
何か口にした途端に止まらなくなって、想いを全て吐き出してしまいそうだ。
だから、何も話せなかった。

予約時間ちょうどに病室の前に着いたら、すぐに病室に呼ばれた。
そこには既に弁護士らしき男性と、シェルターの職員らしき女性が待っていた。

橘医師が弁護士を僕に紹介し、名刺をもらった。
ただ、それだけ。
手続きも何も無い。
本当に何も無い。
ただ、柚葉を引き渡すだけの儀式。

元々僕は、柚葉とは赤の他人で、法的に何か権利や義務があるわけじゃ無い。
だから、手続きなんか何も無い。

橘医師が皆を促し、柚葉はシェルターの職員と、弁護士に付き添われて病室を出る。
僕は母と美春と共に、柚葉を見送るために、後に続く。

病院の玄関の前にはタクシーが既に待っており、弁護士が僕達に会釈をして先に乗り込んだ。
柚葉はシェルターの職員に付き添われて、タクシーに乗り込みかけて止まり、僕の方を見た。

「手塚さん……」
「うん……」
「ありがとうございました……」
「うん……。元気で……」
「手塚さんも……」

「お母さん……」
「なんだい……」
「ありがとうございました……」
母はハンカチを目頭に押し当てながら、うんうんと頷いた。

「手塚さん!」
柚葉が叫んだ。
「私、依存なんか起こしてませんから!」
柚葉は泣きそうな顔で微笑んだ。
最初で最後の、柚葉の笑顔。

柚葉がタクシーに乗り込み、シェルターの職員が続く。
ドアが閉まって、タクシーが走り出した。
タクシーはあっけないほどすぐに見えなくなってしまい、僕達は取り残されたように、その場に立っていた。
酷くあっさりと終わってしまった。
なんだか狐につままれたような、あまりにもあっさりした幕切れだった。

でも、多分……。
僕は後で泣くのだろう。
あの、幸せな時間は、もう来ないのだから。

「パパ?」
美春が僕のジャケットの袖を掴んで揺すっている。
「人助けおわった?」
「おばあちゃんが、パパは人助けでいそがしいって言ってた」

僕は美春を抱き上げた。
「うん、終わったよ」
「ちゃんと助けられた?」
「うん、助けられたよ」
美春はにっこり笑って、僕の頭を撫でた。
「パパえらいね」
「ありがとう、美春」


さよなら、柚葉……。


さよなら

僕の、心の居場所。





この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、組織等、すべて架空の物です。
投稿単語に制限がある為、単語に半角スペースが入っている事があります。




あとがき

Nocky節は恋愛物です ←最初に言え。

気がついたら、書き始めてから3ヶ月も経っていました。
改めて読み返してみると、描写は端折り過ぎてますし、人物の掘り下げとかろくに出来て無いですね。
特に柚葉をちゃんと描けていないのが心残りです。

柚葉が元カレをぶん殴ったのは想定外でした。
でも、なんだか痛快だったのでそのままにしています。
本当は優しくて、良い子よ? ←説得力無し

言いたい事(テーマ)はありましたが、それを表現するにはあまりにも未熟でした()
そういう訳で、そこには全く触れていません。
物語自体は、ちょっと展開を急ぎすぎた感はあります。
小出しにして行くと、あとから大幅な進路変更が出来ないのが辛いですね。
18歳は児童福祉法の対象にならない事を知ったのは、既に公開を始めた後で、慌てて大幅に書き直したりしましたw

文字数をカウントしたら3200文字強しか無くて、短編にしても短い方です。
特に趣味で物語を作っていた訳でもなく、小説にまとめたのは高校以来w なのでこんなんで勘弁してください。

「自分の作品を卑下するのは、作品を気に入ってくれた人に対して失礼である」という事らしいのでこれ以上は言いませんが、反省点は多いです。
むしろ反省点しかない()



次のNocky節はまた2年後ですかね……。

「(手塚さんの)本当の戦いはこれからだっ!」

Nocky先生の次回作にご期待ください()






【小説】ココロの居場所 はじめに
【小説】ココロの居場所 0
【小説】ココロの居場所 1
【小説】ココロの居場所 2
【小説】ココロの居場所 3
【小説】ココロの居場所 4
【小説】ココロの居場所 5
【小説】ココロの居場所 6
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【小説】ココロの居場所 8
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【小説】ココロの居場所 19
【小説】ココロの居場所 20

【小説】ココロの居場所 20

​何事も無く時が過ぎて行った。
当たり前の毎日が、当たり前のように過ぎて行った。
何も変わらなかった。
何も起こらなかった。
カウントダウンだけが遅滞なく進んで行き、別れの日が刻々と迫って行った。

そして、何の慈悲もなく、最後の日が来てしまった。


退社が遅くなり、いつもより随分遅れて柚葉のマンションに到着した。
エントランスで部屋番号をコールしたけど、柚葉が出ない。
いつかの自殺未遂が頭をよぎる。

慌てて合鍵でロックを開け、走ってエレベーターに向かう。
エレベーターが降りてくる時間がもどかしい。
やっと来たエレベーターに飛び乗り、焦って閉じるボタンを連打する。

部屋に着いて、呼び鈴も押さずに鍵を開けて、部屋に飛び込む。
中は真っ暗で電気も点いていない。
廊下から漏れた光で、窓が開いていて、カーテンが揺れているのがわかる。

手遅れかと電気を点けたら、柚葉はベランダの手すりの上に、こちらを向いて腰掛けていた。
後ろに倒れれば、一瞬で落ちる。
多分、助からない。

「柚葉?」

柚葉はゆっくりと僕の方を見た。
泣いていた。

「手塚さん……」
「何をしているの?」

分かりきった事を聞きながら、ゆっくり靴を脱いで、ゆっくり柚葉に近づく。

「手塚さんがいないと、私は生きていけません」
「でも、これ以上手塚さんに迷惑かけたくないです」

「明日にはシェルターに入れるじゃないか。迷惑をかけたくても、かけられないじゃないか」

「手塚さんじゃないと、ダメなんです」
「私には手塚さんしかいないんです。会えなくなるなら、生きている意味なんて無いんです!」

「柚葉……」
「それ以上、近づかないで下さい」

「そこは危ないよ」
「良いんです。死ぬつもりですから」

「手塚さん……。大好きでした。今までありがとうございました。何度も何度も助けてくれました」
「こんな私に優しくしてくれました。何も恩返し出来なくて……ごめんなさい」

あぁ、ダメだ。
本気だ。

「柚葉、ダメだよ。死んではダメだ」

「ごめんなさい」
「もう、生きているのが辛いんです。こんな辛い思いをして生きている意味がわかりません……」
柚葉の頬は涙でぐしょぐしょで、それでも後から後から涙があふれて来ている。

「意味なんて、意味なんていらないんだよ……」

何を言えば良いのか、何を伝えれば良いのか、僕は知っていた。
それ以外、何を言っても柚葉を止められないのも知っていた。
でも、それを言葉にしたら、口にしたら、今までぼんやりと存在していた物が、はっきりとした形を成してしまう。
そして、それは明日には失う事が分かっている。
それは新たな傷となって、僕を苛み続ける。


「柚葉……」

「僕は君が好きなんだ」
柚葉がはっと僕を見た気配がした。
「そんなの嘘です……」

「嘘じゃないよ……。本当なんだよ……」

本当は、気付いていた。
いつの間にか、僕は柚葉に惹かれていた。
知っていて、心に蓋をしていた。
言葉にしなかった。
事実を認めたく無かった。
まだ18の女の子に、惹かれている自分を認めたく無かった。
いつか柚葉を失う事が分かっていて、虚しさだけが残る事が、分かり切っていたから。

「だけど、僕が柚葉を好きになっても、どうしようもないじゃないか。僕はおっさんで、柚葉はまだ18だ。僕には家庭があって、子供もいて……」
「手塚さん……」
「僕だって柚葉に側にいて欲しい、側にいてあげたいよ!でも、どうしようもないんだよ!ダメなんだよ!」

何故か涙が出てきて、柚葉が良く見えない。
「一緒にいられないのなら、せめて……」
「せめて、生きていてよ……」

語尾が震えて、言葉にならない。
「僕の為に……、生きていてよ……」

柚葉がベランダの手すりから降りて、僕に駆け寄ってくるのが涙越しに見えた。
柚葉はそのまま僕にしがみついてきて、僕はやっぱり柚葉を支えきれず、よろけてベッドに倒れ込んだ。

「それに、柚葉の言う「好き」は……」
柚葉の唇に塞がれて、最後まで言えなかった。

それは依存のせいなんだ。
どんなに僕を想ってくれても、それは幻なんだ。

柚葉は、僕にそれを言わせまいとしたんだろうか。



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【小説】ココロの居場所 18
【小説】ココロの居場所 19

この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、組織等、すべて架空の物です。
投稿単語に制限がある為、単語に半角スペースが入っている事があります。

【小説】ココロの居場所 19

その日の柚葉のカウンセリングはいつもよりちょっと長かったし、僕との面談も長かった。
やはり、柚葉の依存は強くなっていたし、病状も悪化していた。

「僕がちゃんと出来ていれば、ここまでにはならなかったんでしょうか?」
「現場の医師でもうまく患者の依存をコントロールできないケースはあります。一般の方にそれをやれと言うのは無理な話です」
「しかし……」
「手塚さんが柚葉さんを預からなければ、柚葉さんは今日ここに居なかったかもしれません」
「それに比べたらはるかに良い事だと思いませんか?」
「……はい」
「精神的な疾患は、短期的には良くなったり、悪くなったりするものです。長い目で見てください」
「手塚さんのせいではありません。ご自身を責めないで下さい」

これではまるで、僕がカウンセリングを受けているみたいだ。
僕は深い溜息をついた。

柚葉がシェルターに入るまで、あと1週間。
1週間もある……。
1週間しかない……。

あと1週間、柚葉を守り切らなければならない。
あと1週間で、柚葉は僕の側からいなくなってしまう。

いつの間にか、柚葉がいる事が当たり前になっていた。
毎日、柚葉の作った弁当を食べ、柚葉の為に弁当を作る。
テレビもない、音楽もない部屋で、途切れがちになりながら、他愛もない会話をする。
何も話さなくても良い。
ただ、そこにいるだけで良い。
あの、穏やかな時間は、もうすぐ無くなってしまう。


駐車場に停めた車に乗り込み、エンジンをスタートさせて、ふと思い立った。
「海でも見に行こうか……」
「全然シーズンじゃ無いけど」

秋の終わり、と言うよりは冬の始まりに近い。
何をしに行くという訳では無いが、ただ、なんとなく、このまま部屋に帰りたくなかった。

「はい……」


思った以上に渋滞していて、江ノ島に到着したのは夕方近かった。
水族館の隣のコインパーキングに車を停め、砂浜に出る。
この水族館には、よく美春を連れて来た。
イルカと人のミュージカルみたいなショーがあって、美春のお気に入りだった。
柚葉がシェルターに入ったら、久しぶりに美春と母を連れて行ってみようか。

海には、寒さをものともしない気合の入ったサーファーしかおらず、あとは砂浜を歩くカップルがちらほらいるだけ。
真夏の喧騒ぶりは見る影もない。

「寒くない?」
「大丈夫です……」

僕も柚葉も、黙って海を見ていた。
ふたりで海を見る事など、最初で最後だ。
もう二度とない。
来週、シェルターの担当弁護士が、病院に柚葉を迎えに来る。
柚葉を引き渡して、そこで終わり。

このまま柚葉をあの部屋に住まわせる事も、少しは考えた。

もし、僕が離婚したら、僕は柚葉とずっと一緒にいられるだろうか。
幸せな時間がずっと続くだろうか。
もし、親権が奪われなければ、美春と柚葉と三人で暮らして行けるだろうか。
美春と柚葉は仲良くやって行けるだろうか。
母と柚葉のように、上手くやって行けるだろうか。

でも、それはだだの妄想。
僕にとって都合が良いだけの、あり得ない未来。


傷つき、荒れ果てた心を癒してくれたのは柚葉だった。
柚葉がそこにいるだけで良かった。
心穏やかでいられた。

でも、柚葉がこうして僕の腕に腕を絡ませているのは病気のせいで、当然キスもそうだ。
僕を想ってくれているように見えても、それは言わば幻のようなもので、本物では無い。
それを利用することは簡単だが、柚葉にとって不幸だ。

柚葉が元気になったら、幻は消え、普通の女の子に戻る。
新しい人生を歩み、新しい幸せを掴む。
その時、そこにいるのは僕では無いし、僕であるべきではない。

柚葉には、相応しい相手が見つかるはず。
柚葉には幸せになって欲しい。
世界で一番幸せになって欲しい。
絶対にそうなるべきだ。
彼女にはその資格がある。

柚葉はここに居ても幸せになれない。
僕は柚葉の側にいてはいけない。
だから、離れなければならない。

僕は何も喋らず、柚葉も何も喋らなかった。
ただ黙って、砂浜の脇にあるコンクリの歩道をゆっくりと歩いた。



【小説】ココロの居場所 はじめに
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【小説】ココロの居場所 18

​手塚さんが側にいるだけで、なんだか安心します。
だけど、手塚さんと一緒に居られるのは、あと10日くらいしかありません。
手塚さんとお別れした後の事を考えると怖いです。

私は手塚さんが好きです。
この「好き」は、普通の好きじゃないです。
前の彼氏とか、友達とかに言っていたような好きとは違います。
全然違います。
特別な「好き」です。
この「好き」は、世界にひとつしかありません。

手塚さんとずっと一緒に居たいです。
でも、手塚さんには奥さんがいて、お子さんもいます。
家庭があります。
私はそこには行けません。
ずっと一緒にはいられません。
毎日部屋に来てくれますが、家族のいる家へ帰って行きます。

でも、私は手塚さんにキスをしてしまいました。
「好き」が止められませんでした。
手塚さんにとっては浮気と同じです。
私は手塚さんに浮気をさせてしまいました。
手塚さんの事を考えると、お前は死ななくてはならない、という声が聞こえてきます。

私は手塚さんを巻き込んでしまいました。
たくさん迷惑をかけています。
手塚さんのお母さんにも迷惑をかけています。
私が手塚さんに助けを求めなければ良かったんです。

私がいなければ、手塚さんは元の幸せな家庭に戻れます。
私が迷惑をかける事もなくなります。
私がいなければ、誰にも迷惑はかかりません。
手塚さんにはこれ以上迷惑をかけたくないです。
私がここに居るだけで、手塚さんに迷惑をかけてしまいます。
私が生きているだけで、迷惑をかけてしまいます。

私は、消えてしまいたいです。
自分自身を消してしまいたいです。
消してしまえば、汚れてしまった私はいなくなります。


ここまで書いて、もし先生がこのノートを手塚さんに見せたら、と思って消しゴムを掴んだ。
手塚さんが心配しちゃう。

消そうとして、やっぱりやめた。
思った事をなんでも素直にそのまま書きなさい、と先生に言われてた。

このノートには、最初にあの夜の出来事が書いてある。
思い出せるだけ思い出して、全部ノートに書いた。
最初は先生のいる前で書いて、その後はこの部屋で、何度も書いて、何度も読み直した。
それが終わったら、今度はそれを先生に読んで聞かせた。
何度も。

その後は、大好きな手塚さんの事と、消えたい、しか書いてない。

今の私の心には、そのふたつしかないから。


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【小説】ココロの居場所 17

​その日は遅くに自宅へ帰り、翌日はいつものように出勤した。
結局頬はたいして腫れる事も無く、痣になることも無く、妻に何か言われることも無かった。
そもそもお互いに何も気にかけて無いのだから、気付いても何も言われなかったかもしれない。

何か言われるのが嫌なのではない。
そもそも声を聞きたくない。
妻が僕に何か用がある時は、まるで親の仇でも見るような目で話しかけてくる。
多分、僕も似たような顔をしているのだろう。
もう、長いことそんな感じだ。
喧嘩にならずに話が済むことがない。


仕事を急いで片付けて、帰りにいつものように柚葉の部屋に立ち寄った。
マンションのエントランスで部屋番号を押して呼び出しをするが、柚葉が出ない。
仕方なく合鍵でオートロックを通り、部屋まで行って呼び鈴を鳴らすが、やはり応答が無い。

居ないはずはない。
まだ一人では外出はできないはずだ。

鍵を開けて部屋に入ると、柚葉は玄関の目の前にあるキッチンに立っていた。
柚葉の右手には包丁が握られ、その刃先は左手の手首に向けられている。

リストカットは本気で死のうとしてやるわけではない。
だから手首を横切るように切る。
切った手首を風呂にでもつけない限り、血は止まってしまう。
しかし、柚葉の持つ包丁の刃は、手首に縦に向いていた。

まずい、縦はまずい。
本当に死ぬ。

「柚葉……」

僕は彼女を刺激しないように、なるべくそっと声を掛けた。
それでも柚葉は驚いたように、一緒ビクッと震えた後、ゆっくりと僕の方を向いた。

「手塚……さん?」

柚葉の声は震えていて、あまりはっきりと聞き取れない。

「そうだよ、どうしたの?」

僕はゆっくり靴を脱いで、なるべくゆっくりと柚葉に近づく。

「助けて……」

「どうしたの?僕がいるから大丈夫だよ。何も怖い事はないよ」
「『お前は死ななくてはならない』って、声がするの……」

「私、手塚さんにたくさん迷惑かけてるから……死なないといけないんだ」

「大丈夫だよ、迷惑なんてかかってないよ」
「柚葉が死ななきゃならない理由なんて無いよ」

声をかけながらゆっくりと近づき、手の届く距離まで来た。
しかし、どうやって包丁を取り上げれば良いのかわからない。
こういう場面に遭遇するとは思って無かったし、病院で貰った冊子にも、こんな時にどう対応するかなんて書いてなかった。

取り敢えず、柚葉の手首に僕の手を重ねてブロックし、それから包丁を持つ手に僕の手を重ねた。
包丁を持つ手を確保してから、ゆっくりと包丁を取り上げる。
爆弾を処理しているような気分だ。

包丁をシンクに置いて、やっと一息ついた。
先に包丁を持つ手を確保した方が良かったのか?
よく分からないが、まぁ、いい。

僕は柚葉を抱きしめ、背中をさすり始めた。
柚葉は声を出して泣き始めてしまい、僕は自分の迂闊さを呪った。
いつ自殺を図るか分からないと言われていた。
刃物は全て取り上げだ方が良いのだろうか。
しかし、刃物なんか無くても、ベランダから飛び降りられたらどうしようもない。
道具を取り上げてもダメなんだ。

柚葉の病状は、悪化してるのだろう。
今までこんな事は無かったし、母も何も言っていなかった。
僕と一緒にいる時は安定していて、柚葉が病気だという事を忘れてしまいそうになる。
ちょっと甘く見ていた。

この調子では、いつか、柚葉を死なせてしまうかもしれない。
今頃になって、そんな不安が僕の中に湧き上がって来る。
手のひらに、冷たい皮膚の感触が蘇る。

ダメだ。
柚葉を死なせてはダメだ。

死なせない。
死なせない。

絶対に死なせない。



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プロフィール

Nocky

Author:Nocky
ILLUSIONのゲーム"プレイクラブ"、"ハニーセレクト"、"プレイホーム"のSSと、キャラに着せる洋服をメインに扱っています。
登場するモデルは全て成人です。

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