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【小説】ココロの居場所 5

​柚葉がうなされている声で、うとうとしていた僕は目を覚ました。
苦しそうなので起こそうとすると、彼女は突然叫び声を上げて飛び起きた。
しばらくは自分がどこに居るか分からなかったらしく、キョロキョロ辺りを見回していた。

「大丈夫?」

柚葉は僕の顔を見ずにガクガク頷いた。
悪い夢でも見ていたのだろう。
夢の中では助けてやる事も出来ない。

柚葉が落ち着いてから、僕は柚葉を家に待たせたまま、コンビニで二人分の昼食を調達した。
家に戻ると、柚葉はソファーに腰掛けたまま、何もない空間をぼんやり眺めていてた。
ここに居るけどここに居ない。
心だけが別の世界に行ってるみたいだった。
声をかけても反応が無いので、僕はコンビニの袋をダイニングテーブルの上に置き、しばらく柚葉を観察した。

古い記憶が、ゆっくりと目を覚ましていく。
ずっと心の奥に封印していた、辛い記憶。
「彼女」に似ている訳では無い。
共通しているのは当時の「彼女」と歳が同じな事だけ。
「彼女」は文字通り、永遠に18歳のままだ。
何故か、柚葉を見ているとあの頃の記憶が引き摺り出されてしまう。
楽しかった記憶も、辛い記憶も。
長い間忘れていたのに。
思い出す事も無かったのに。


高校の時、クラスに生まれつき心臓の悪い子がいた。
学校を休みがちだったせいか、友達と一緒にいる事はあまり無かったように思う。
休み時間はいつもひとりで本を読んでいた。
僕は彼女に興味はなかったし、何の関わりも無かった。
彼女は体育の授業をいつも見学していた。

僕が腕の骨を折って、1ヶ月ほど体育の授業に出れない期間があって、あまりにも暇で声を掛けたのが始まりだった。
彼女は先天性の大動脈弁狭窄症とか言う病気で、生まれてからこれまで、ずっと入退院を繰り返していた。
特に付き合う事になった訳ではなかったけど、時々彼女の家に遊びに行ったり、本を借りたりするようになった。
彼女が遠出できないので、二人で何処かに出かけた事は無かったと思う。
彼女が長く生きられない事は分かってた。
彼女自身がそう言っていた。
彼女の両親も。

あの日、昨日までそこにあった幸せな空間は、一瞬で消滅した。
僕はその瞬間が来るまで、自分の気持ちを全く理解していなかった。
まだまだ子供だったのだ。

部屋のベッドに横たわる彼女は、まるで作り物みたいで、現実感が無かった。
手を伸ばして彼女の頬に触れたら、暖かかった……。

違う。
あの時、彼女の頬は冷たかった。

僕が触れていたのは柚葉の頬で、「彼女」の頬ではなかった。
そこにいるのは「彼女」ではなく、柚葉という全く別の女の子で……。
そして、柚葉の頬は暖かかった。
生きている人間の暖かさだった。

「どうして……泣いてるんですか?」

PlayHomeStudio64bit 2018-02-13 22-43-34

「……え?」

突然現実に引き戻されて、僕は状況が把握出来ずにしばらく固まってしまった。
女子高生の頬に触れて涙を流しているおっさん、という状況に気づき、慌てて柚葉の頬から手を離してた。

柚葉はいつの間にかこっちの世界に戻って来たらしい。
僕は溢れていた涙を手の甲でゴシゴシ拭った。
「おっさんにだって色々あるんだよ」
僕はそう言って、バツの悪さを隠すように無理やり笑った。

涙なんか流したのは何年ぶりだろう。



【小説】ココロの居場所 はじめに
【小説】ココロの居場所 0
【小説】ココロの居場所 1
【小説】ココロの居場所 2
【小説】ココロの居場所 3
【小説】ココロの居場所 4

この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、組織等、すべて架空の物です。
投稿単語に制限がある為、単語に半角スペースが入っている事があります。
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Nocky

Author:Nocky
ILLUSIONのゲームのSSと、キャラに着せる洋服を扱っていました。
現在はDazStudioがメインです。
登場するモデルは全て成人です。

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