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【小説】ココロの居場所 15

​外出先から直帰したので、いつもよりかなり早く柚葉のマンションに到着した。
今日は妻は夜勤だから、美春のお迎えに行かなきゃいけないが、それでも随分時間がある。

エレベーターのドアが開くと、部屋のドアをバンバン叩いている音がする。

「柚葉!いるんだろ!」
男は柚葉と似たような制服を着た高校生で、柚葉の名を呼びながら、ひたすらドアを叩いている。
同級生だろうか。
何でここが分かったのか……。
友達から漏れたのか。

「何をしているんだ」
声をかけながら近づく。

彼は僕に気がつくと、ドアを叩くのをやめた。
意外とイケメン。
「あんたが誘拐犯か?」
「そういう君は何だ? 近所迷惑だぞ」

「柚葉の彼氏だよ、彼氏。柚葉を返せよ」
確か、彼氏は柚葉を見て逃げ出したのでは無かったか。

「何も分かっていないくせに、思い込みで好き勝手な事を言うんじゃない。帰りなさい」
「誘拐犯が説教かよ!」

自称彼氏は僕の胸ぐらを掴んできて、今にも殴りかかりそうな勢いだ。
僕も心拍数が上がってる。

リアルバトルは結構だが、下手に怪我でもさせたら、今度はいきりペアレンツがやって来る。
どうやってこのちびっ子に帰って頂くか。

取り敢えず腕を引き剥がそうと、胸ぐらを掴んでいる彼氏の腕の、肘側に腕を入れたところで右の拳が飛んできた。
咄嗟にかわしたつもりだったが、実際には普通に食らったっぽい。
ろくに運動もしてないおっさんが、そう簡単にパンチをかわせるかって話で。

口の中に鉄臭い味が広がったのを感じたところで、部屋から柚葉が飛び出して来た。
「手塚さん!手塚さん!」
柚葉は泣きながら、僕と自称彼氏の間に割って入り、自称彼氏を突き飛ばした。
柚葉がしがみついて来て、僕はちょっとよろけた。

「大丈夫、大丈夫」
僕はそう言って柚葉の背中をポンポンと叩いた。
アドレナリンが出まくっているので痛みは感じない。
こういう時は、後で痛いのだ。

柚葉は混乱しているのか、興奮しているのか、震えながら泣きじゃくっていて、もうよく分からない。
過呼吸とか起こさなければ良いが。

柚葉は突然、自称彼氏の方を向き、足早に近づくと、重心を落として上半身を若干右に捻った。
あっ、と思った瞬間に、スパーンという、ものすごい破裂音がマンションの廊下に響き渡った。

しっかり体重の乗った平手打ちが、自称彼氏の頬に綺麗に入って、笑っちゃうくらいにくっきりと柚葉の手形が残っていた。

「私の……、私の大切な人になんて事すんのよ!」
「あ?」
「助けて欲しい時に逃げ出したくせに、今更何しに来たわけ?何も知らないのにひとりで粋がって、ほんっとにバカじゃないの!」
「あ、いや、俺は……」

自称彼氏の言い分は、二発目の平手打ちのお陰で、最後まで聞けなかった。
なんか鼻血も垂れて来てる。

「二度と来ないで!私の前に出て来ないで!」

柚葉の震えはピークに達していて、呼吸も荒い。
ちょっとこれ以上はまずいのではないか。

「そんなおっさんが良いのかよ!お前みたいなキチガイにはお似合いだよ!」
自称彼氏は捨て台詞を残して、小走りに去って行く。

言うに事欠いて、なんて事言うんだこのクソガキが。
と思ったが、それどころでは無い。
柚葉が僕に駆け寄って、またしがみついて来たからだ。
なんだか力が入らなくて、僕はそのまま尻餅をついてしまい、そのままマンションの廊下に寝転んでしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
僕に覆いかぶさって、泣きながら謝り続ける柚葉の髪を撫でながら、アドレナリンが切れてきたのに気付く。
殴られた頬が痛くなってきた。
冷やさないと腫れるなぁ、これは。

「大丈夫、君のせいではないよ」
「何も悪くない」

柚葉が感情を表に出して、あれほどはっきりとものを言ったのは初めてだ。
いつも感情に起伏があまり無くて、話す時も言葉が途切れがちだった。

しかし、さっきから、胸のあたりでチリチリ痺れるような、それでいてモヤモヤした感情が湧いて出ている。
やけに不安定で、落ち着かない、ある種攻撃的にも思える感情。

あぁ、これは嫉妬なのだと気づいたのは、柚葉の唇が僕の唇に押し付けられた後の事だった。

油断していた。

キスはまずい。

しかし、唇から流れ込む麻酔は、頬の痛みと判断力を僕から奪って行く。
唇ってこんなに柔らかかったっけ。

柚葉が顔を上げて僕を見る。
「キスはダメだよ……」
「……ごめんなさい」

そう言って、柚葉はまた唇を押し付けてきた。
今度はやけに長いキスだった。

少し、涙の味がした。



【小説】ココロの居場所 はじめに
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【小説】ココロの居場所 14

この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、組織等、すべて架空の物です。
投稿単語に制限がある為、単語に半角スペースが入っている事があります。
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コメント

非公開コメント

No title

だんだん話が大きくなってきましたな。
警察が来ても事情を話せばなんとかなるかもしれないが問題はやはりあのカス嫁か。

Re: No title

きにちみさん

シェルターの窓口弁護士に話を通しているから、警察が来ても大丈夫!
……だと思う。

>問題はやはりあのカス嫁か。
まぁ、ねぇ。
色々一筋縄ではいきませんね。

No title

コメント返しです。

>色々一筋縄ではいきませんね。
色々と面倒なら快刀乱麻を断つウチの黒い魔人を派遣して差し上げますが?
A:結構です
B:そのうちお願いします

Re: No title

きにちみさん
オリディさんとか出てきた日には、もっと面倒な事になりますのでお断りします!w
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Nocky

Author:Nocky
ILLUSIONのゲーム"プレイクラブ"、"ハニーセレクト"、"プレイホーム"のSSと、キャラに着せる洋服をメインに扱っています。
登場するモデルは全て成人です。

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