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【小説】ココロの居場所 19

その日の柚葉のカウンセリングはいつもよりちょっと長かったし、僕との面談も長かった。
やはり、柚葉の依存は強くなっていたし、病状も悪化していた。

「僕がちゃんと出来ていれば、ここまでにはならなかったんでしょうか?」
「現場の医師でもうまく患者の依存をコントロールできないケースはあります。一般の方にそれをやれと言うのは無理な話です」
「しかし……」
「手塚さんが柚葉さんを預からなければ、柚葉さんは今日ここに居なかったかもしれません」
「それに比べたらはるかに良い事だと思いませんか?」
「……はい」
「精神的な疾患は、短期的には良くなったり、悪くなったりするものです。長い目で見てください」
「手塚さんのせいではありません。ご自身を責めないで下さい」

これではまるで、僕がカウンセリングを受けているみたいだ。
僕は深い溜息をついた。

柚葉がシェルターに入るまで、あと1週間。
1週間もある……。
1週間しかない……。

あと1週間、柚葉を守り切らなければならない。
あと1週間で、柚葉は僕の側からいなくなってしまう。

いつの間にか、柚葉がいる事が当たり前になっていた。
毎日、柚葉の作った弁当を食べ、柚葉の為に弁当を作る。
テレビもない、音楽もない部屋で、途切れがちになりながら、他愛もない会話をする。
何も話さなくても良い。
ただ、そこにいるだけで良い。
あの、穏やかな時間は、もうすぐ無くなってしまう。


駐車場に停めた車に乗り込み、エンジンをスタートさせて、ふと思い立った。
「海でも見に行こうか……」
「全然シーズンじゃ無いけど」

秋の終わり、と言うよりは冬の始まりに近い。
何をしに行くという訳では無いが、ただ、なんとなく、このまま部屋に帰りたくなかった。

「はい……」


思った以上に渋滞していて、江ノ島に到着したのは夕方近かった。
水族館の隣のコインパーキングに車を停め、砂浜に出る。
この水族館には、よく美春を連れて来た。
イルカと人のミュージカルみたいなショーがあって、美春のお気に入りだった。
柚葉がシェルターに入ったら、久しぶりに美春と母を連れて行ってみようか。

海には、寒さをものともしない気合の入ったサーファーしかおらず、あとは砂浜を歩くカップルがちらほらいるだけ。
真夏の喧騒ぶりは見る影もない。

「寒くない?」
「大丈夫です……」

僕も柚葉も、黙って海を見ていた。
ふたりで海を見る事など、最初で最後だ。
もう二度とない。
来週、シェルターの担当弁護士が、病院に柚葉を迎えに来る。
柚葉を引き渡して、そこで終わり。

このまま柚葉をあの部屋に住まわせる事も、少しは考えた。

もし、僕が離婚したら、僕は柚葉とずっと一緒にいられるだろうか。
幸せな時間がずっと続くだろうか。
もし、親権が奪われなければ、美春と柚葉と三人で暮らして行けるだろうか。
美春と柚葉は仲良くやって行けるだろうか。
母と柚葉のように、上手くやって行けるだろうか。

でも、それはだだの妄想。
僕にとって都合が良いだけの、あり得ない未来。


傷つき、荒れ果てた心を癒してくれたのは柚葉だった。
柚葉がそこにいるだけで良かった。
心穏やかでいられた。

でも、柚葉がこうして僕の腕に腕を絡ませているのは病気のせいで、当然キスもそうだ。
僕を想ってくれているように見えても、それは言わば幻のようなもので、本物では無い。
それを利用することは簡単だが、柚葉にとって不幸だ。

柚葉が元気になったら、幻は消え、普通の女の子に戻る。
新しい人生を歩み、新しい幸せを掴む。
その時、そこにいるのは僕では無いし、僕であるべきではない。

柚葉には、相応しい相手が見つかるはず。
柚葉には幸せになって欲しい。
世界で一番幸せになって欲しい。
絶対にそうなるべきだ。
彼女にはその資格がある。

柚葉はここに居ても幸せになれない。
僕は柚葉の側にいてはいけない。
だから、離れなければならない。

僕は何も喋らず、柚葉も何も喋らなかった。
ただ黙って、砂浜の脇にあるコンクリの歩道をゆっくりと歩いた。



【小説】ココロの居場所 はじめに
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この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、組織等、すべて架空の物です。
投稿単語に制限がある為、単語に半角スペースが入っている事があります。
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コメント

非公開コメント

No title

えー、もう半分過ぎてたんですか。(´A`)
暗い話とか救いのない話であるとは聞いていましたが、イメージ的に低空飛行のみで、少しも上昇する気配がここまでないとは思ってませんでした。
逆にいえば、今まではそういう話を読んだことが記憶の限りではないため、この話の顛末がとても気になります。
次回あたりからはウィスキーでも飲みながら読ませて頂きます。

Re: No title

きにちみさん

半分過ぎてると言うか、もうすぐ終わりです。
既に脱稿してます(w
プロフィール

Nocky

Author:Nocky
ILLUSIONのゲーム"プレイクラブ"、"ハニーセレクト"、"プレイホーム"のSSと、キャラに着せる洋服をメインに扱っています。
登場するモデルは全て成人です。

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