FC2ブログ

【小説】ココロの居場所 20

​何事も無く時が過ぎて行った。
当たり前の毎日が、当たり前のように過ぎて行った。
何も変わらなかった。
何も起こらなかった。
カウントダウンだけが遅滞なく進んで行き、別れの日が刻々と迫って行った。

そして、何の慈悲もなく、最後の日が来てしまった。


退社が遅くなり、いつもより随分遅れて柚葉のマンションに到着した。
エントランスで部屋番号をコールしたけど、柚葉が出ない。
いつかの自殺未遂が頭をよぎる。

慌てて合鍵でロックを開け、走ってエレベーターに向かう。
エレベーターが降りてくる時間がもどかしい。
やっと来たエレベーターに飛び乗り、焦って閉じるボタンを連打する。

部屋に着いて、呼び鈴も押さずに鍵を開けて、部屋に飛び込む。
中は真っ暗で電気も点いていない。
廊下から漏れた光で、窓が開いていて、カーテンが揺れているのがわかる。

手遅れかと電気を点けたら、柚葉はベランダの手すりの上に、こちらを向いて腰掛けていた。
後ろに倒れれば、一瞬で落ちる。
多分、助からない。

「柚葉?」

柚葉はゆっくりと僕の方を見た。
泣いていた。

「手塚さん……」
「何をしているの?」

分かりきった事を聞きながら、ゆっくり靴を脱いで、ゆっくり柚葉に近づく。

「手塚さんがいないと、私は生きていけません」
「でも、これ以上手塚さんに迷惑かけたくないです」

「明日にはシェルターに入れるじゃないか。迷惑をかけたくても、かけられないじゃないか」

「手塚さんじゃないと、ダメなんです」
「私には手塚さんしかいないんです。会えなくなるなら、生きている意味なんて無いんです!」

「柚葉……」
「それ以上、近づかないで下さい」

「そこは危ないよ」
「良いんです。死ぬつもりですから」

「手塚さん……。大好きでした。今までありがとうございました。何度も何度も助けてくれました」
「こんな私に優しくしてくれました。何も恩返し出来なくて……ごめんなさい」

あぁ、ダメだ。
本気だ。

「柚葉、ダメだよ。死んではダメだ」

「ごめんなさい」
「もう、生きているのが辛いんです。こんな辛い思いをして生きている意味がわかりません……」
柚葉の頬は涙でぐしょぐしょで、それでも後から後から涙があふれて来ている。

「意味なんて、意味なんていらないんだよ……」

何を言えば良いのか、何を伝えれば良いのか、僕は知っていた。
それ以外、何を言っても柚葉を止められないのも知っていた。
でも、それを言葉にしたら、口にしたら、今までぼんやりと存在していた物が、はっきりとした形を成してしまう。
そして、それは明日には失う事が分かっている。
それは新たな傷となって、僕を苛み続ける。


「柚葉……」

「僕は君が好きなんだ」
柚葉がはっと僕を見た気配がした。
「そんなの嘘です……」

「嘘じゃないよ……。本当なんだよ……」

本当は、気付いていた。
いつの間にか、僕は柚葉に惹かれていた。
知っていて、心に蓋をしていた。
言葉にしなかった。
事実を認めたく無かった。
まだ18の女の子に、惹かれている自分を認めたく無かった。
いつか柚葉を失う事が分かっていて、虚しさだけが残る事が、分かり切っていたから。

「だけど、僕が柚葉を好きになっても、どうしようもないじゃないか。僕はおっさんで、柚葉はまだ18だ。僕には家庭があって、子供もいて……」
「手塚さん……」
「僕だって柚葉に側にいて欲しい、側にいてあげたいよ!でも、どうしようもないんだよ!ダメなんだよ!」

何故か涙が出てきて、柚葉が良く見えない。
「一緒にいられないのなら、せめて……」
「せめて、生きていてよ……」

語尾が震えて、言葉にならない。
「僕の為に……、生きていてよ……」

柚葉がベランダの手すりから降りて、僕に駆け寄ってくるのが涙越しに見えた。
柚葉はそのまま僕にしがみついてきて、僕はやっぱり柚葉を支えきれず、よろけてベッドに倒れ込んだ。

「それに、柚葉の言う「好き」は……」
柚葉の唇に塞がれて、最後まで言えなかった。

それは依存のせいなんだ。
どんなに僕を想ってくれても、それは幻なんだ。

柚葉は、僕にそれを言わせまいとしたんだろうか。



【小説】ココロの居場所 はじめに
【小説】ココロの居場所 0
【小説】ココロの居場所 1
【小説】ココロの居場所 2
【小説】ココロの居場所 3
【小説】ココロの居場所 4
【小説】ココロの居場所 5
【小説】ココロの居場所 6
【小説】ココロの居場所 7
【小説】ココロの居場所 8
【小説】ココロの居場所 9
【小説】ココロの居場所 10
【小説】ココロの居場所 11
【小説】ココロの居場所 12
【小説】ココロの居場所 13
【小説】ココロの居場所 14
【小説】ココロの居場所 15
【小説】ココロの居場所 16
【小説】ココロの居場所 17
【小説】ココロの居場所 18
【小説】ココロの居場所 19

この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、組織等、すべて架空の物です。
投稿単語に制限がある為、単語に半角スペースが入っている事があります。
関連記事

コメント

非公開コメント

プロフィール

Nocky

Author:Nocky
ILLUSIONのゲーム"プレイクラブ"、"ハニーセレクト"、"プレイホーム"のSSと、キャラに着せる洋服をメインに扱っています。
登場するモデルは全て成人です。

Counter
PV(2016.11.24-)
カレンダー
10 | 2018/11 | 12
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
カテゴリ
リンク
DAZ Studio
プレイホーム2
プレイホーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる